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最高裁判所第二小法廷 昭和61年(オ)1417号 判決

大阪市西区北堀江一丁目三番三号

上告人

ハンコウ興産株式会社

右代表者代表取締役

横山宏史

兵庫県宝塚市仁川北二丁目一三番二〇-六一四号

上告人

横山宏史

右両名訴訟代理人弁護士

中山俊治

愛媛県温泉郡川内町大字北方甲七〇五番地

被上告人

モノレール工業株式会社

右代表者代表取締役

日野桂

大阪市中央区備後町一丁目一五番地

被上告人

野村貿易株式会社

右代表者代表取締役

三谷廣信

右当事者間の大阪高等裁判所昭和五八年(ネ)第一一〇一号、第一一五〇号、第一一九六号実用新案権侵害差止等請求事件について、同裁判所が昭和六一年八月二七日言い渡した判決に対し、上告人らから一部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人中山俊治の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして肯認するに足り、右事実及び原審の適法に確定したその余の事実関係のもとにおいて、原判示の被告装置(一)及び被告装置(二)は原判示本件考案の技術的範囲に属しないとした原審の判断は、是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野久之 裁判官 牧圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島昭 裁判官 香川保一)

(昭和六一年(オ)第一四一七号 上告人 ハンコウ興産株式会社 外一名)

上告代理人中山俊治の上告理由

原判決は、実用新案法第二六条で準用する特許法第七〇条および実用新案法第二七条の解釈適用を誤った違法があり、これら違法は判決に影響を及ぼすことが明らかで、とうてい破棄を免れない。

第一、原判決の本件実用新案の技術的範囲についての解釈認定とその法令違背

一、原判決の認定

原判決(その訂正・引用する第一審判決を含む。以下同じ)は、本件実用新案の構成要件を

ゴルフコース用ゴルフバッグ搬送循環軌道装置であって、

(一) ゴルフコースに沿って多数の支柱を立設してあること

(二) 右支柱上に軌条を敷設してあること

(三) 右軌条上をゴルフバッグを運搬する自走車輌を巡回走行せしめるようにしてあること

であると認定しながらも、その構成要件の意味内容の解釈については、

(1) 右構成要件(二)の「右支柱上に軌条を敷設してあること」とは、支柱上方の適当な高さの「中空」或いは単に支柱の上方に軌条を保持することを意味すると解することはできず、まさしく支柱そのものの上に、即ち支柱上に軌条を敷設してあることと認めるのが相当であり、

(2) また、右構成要件(一)の「ゴルフコースに沿って多数の支柱を立設してあること」とは、各ホール内ではフェアウェイの中心線付近か少なくともフェアウェイに接して支柱を立設することを要するとの意味である

と認定している。

二、本件考案の構成要件の解釈についての認定の誤り

原判決の本件考案の構成要件(一)、(二)についての解釈は右(1)、(2)のとおりであるが、いずれも本件考案の構成要件の解釈を誤ったものである。以下この点を詳論することとする。

(一) 本件考案の意義

(1) 本件考案の出願時において、すでにみかん運搬用のモノレール装置、朝倉バブリックコースにおけるコース補修用資材運搬用のモノレール装置、ゴルフ練習場のゴルフボール運搬用のモノレール装置等が存在したが、これらはいずれも可能な限りの大量の小型貨物を或る地点より他の地点へ運搬することを目的とするものであって、或る地点にて貨物を積載して走行し、積載地と異なった地点(目的地)で貨物を降ろすものである。すなわち、積載された貨物が降ろされることによって目的が達せられるもので、運搬とは貨物を積載する場所とこれを降ろす場所が異なることを前提としており、朝倉ゴルフコースにおけるモノレール装置とて同様のことで、ゴルフコースの手入れや改造のために必要な芝や資材を必要な場所へ移動するだけのものである。したがって、ミカンやゴルフボールの運搬用モノレールにも明らかな如く、できるだけ大量の貨物を積載するため、自走車輌といっても、貨物積載車輌(台車)を動力車(牽引車)が牽引して走行するものである。

(2) これに対し、本件考案は、ゴルフという特定されたスポーツのプレーに利用するもので、プレイヤーがゴルフコースをラウンドするのに必要なゴルフクラブを常にプレイヤーに随伴させてコースを巡回させるためのものであり、したがってゴルフクラブを収納したゴルフバッグを或る地点で積載して、これを他の地点で降ろすという思想はなく、また大量のゴルフバッグを積載するという思想もない。このため、公知の小型貨物運搬装置と異なり、自走車輌自体に通常多くて四個までのゴルフバッグを積載して走行巡回するものである。

このように、本件考案の装置は、ゴルフバッグをある地点にて積載して他の地点で降ろすことを目的とするものではなく、ゴルフバッグとこれを積載した自走車が一体となって、プレイヤーに随伴してゴルフコースを巡回移動することを目的とするものである。

(3) 本件考案の出願当時、ゴルフコースにおけるゴルフバッグ搬送手段にモノレール装置を利用したことは予想外のことであったものであり、ゴルフ業界においても、従来のカートによる搬送に満足しており、これを他の方法に置き換えてみようという発想がなかったのであって、本件考案は従来のカートによる搬送の欠点に気付き、これを改良するにはどのようにすればよいか、との発想より出発して、モノレール装置の利用に到達したもので、その間には或る種のひらめきと思考の飛躍を要し、また従来の搬送方法の欠点を除去しようとした着想そのものが新規な試みであったのである。

モノレールは、交通機関、果樹園の収穫用、農園での薬剤撒布用、或いは土木工事現場の運搬装置等と次第にその利用範囲が拡げられてきたが、それらはいずれも小型貨物を或る地点より或る地点へ運搬することを目的としたもので、ゴルフコースにおけるゴルフバッグ運搬手段(貨物の単なる搬送とは異なり、ゴルフのプレイヤーに随伴してゴルフコースを一周ラウンドする手段)の提唱は本件考案が最初だったものである。

(4) いうまでもなく、小型貨物搬送用モノレールの属性(省力性、安全搬送性、設置幅の狭小性、地上物に対する非干渉性等)を認識しさえすれば、そのことだけで直ちに本件考案が想到されるというものではない。

ゴルフのプレーでは、ゴルフバッグをプレイヤーに随伴させなければならないが、カートを使用すると折角育成した芝生が損傷するので、これを損傷しないで搬送するにはどうしたらよいかとの発想(解決すべき課題)から、前記認定の構成要件からなる本件考案のゴルフバッグ搬送循環軌道装置の利用(解決手段)が考えられたのである。

本件考案の出願当時にあっては、現在ほどのキャディ不足はなく、したがって、手押しカートや電動カートによる搬送方法に満足していたゴルフ場が大部分であり、かつ、ゴルフ場の方針としてはいかにキャディを確保するかという面に努力が払われており、またゴルフコースはいうまでもなく、ゴルフというスポーツをプレーするグラウンド(競技場)であるので、元来そのプレーの障害となる人工構築物等は可能な限り設けるべきでないとされており、このため、カート走行専用路を採月しているゴルフ場すら少なかったのである。

(5) したがって、業界において、ゴルフバッグ搬送手段の新規開発の必要性の認識がなく、したがってそのことを提唱する者もいなかったのである。

このように、従来のカート等の搬送手段の欠点を抜本的、全面的に克服すべき技術的課題として積極的に捉らえたことは本件考案の出願当時には未だなかったにもかかわらず、本件考案はこれを解決すべき課題として正面から捉らえ、しかも前記認定の構成要件から成る構成を不可分有機的に結びつけたことによって、「芝生に損傷を与えないので芝生を保護し、その育成保全管理に要する労力費用などを軽減でき、カート専用道を造成する必要がないからプレー可能な芝生面を充分確保でき、またゴルフバッグ運搬の省力化を図ることができ、ゴルフバッグを安全にコースに沿って巡回搬送できるなどのモノレール本来の利点に加えて、ゴルフ場特有の諸効果を奏すること」に頭著なる成功を修めたものであって、正に開拓的考案であったものである。

(二) 本件考案の構成要件(二)の解釈についての認定の誤り

以上のように、本件考案は、正に開拓的考案であるが故に新規性、進歩性を有するものとして、特許庁においても実用新案の登録を許されたものである。

ところが、原判決は前記のとおり本件考案の構成要件(二)の「右支柱上に軌条を敷設してあること」とは、まさしく支柱そのものの上に、即ち支柱上に軌条を敷設してあることと認めるのが相当であると認定し、その理由を次の如く判示している。

(1) 本件考案は、その出願前に存した小型貨物搬送モノレール装置をゴルフコースに沿って巡回するゴルフバッグ搬送装置に転用した点に考案性ありとして登録されたものであるが、右転用は、ゴルフ場におけるゴルフバッグ搬送に関するモノレールの用途の発見に基づく用途考案である。

(2) 右転用の技術につき、本件実用新案公報の「実用新案登録請求の範囲」の記載には、単に「支柱上に・・・自走車輌を・・・走行させる軌条を敷設した」とあるにすぎないが、「考案の詳細な説明」の記載には、「自走車11には、下面に軌条8を抱持する複数の車論があって、該自走車11が軌条8上を離脱することなく走行させ」とあるうえ、支柱と軌条との位置関係及び軌条を抱持する複数の車輪の位置関係を示す第2図(軌条上に停止している運搬車の斜視図)及び第3図(軌条上の運搬車の要部正面図)が示されており、これによれば、軌条はその両側壁を貫通する連結棒を支柱と直交させ、支柱の上端部一側方に上下方向調節可能に固定することにより支柱と軌条との間に間隔を設けて取り付けてある技術構成ではなく、支柱の直上に軌条が設置されていて、車輪が軌条を抱持する技術構成であることが明らかである。

右の支柱と軌条の取付位置に関する技術は、軌条を支柱上端面の軸線上で支える構成であり、軌条を抱持する複数の車輪の構成と相まって自走車が軌条を離脱することなく走行できる作用効果を生じさせている。

(3) 成立に争いのない甲第六号証によると、自走式単軌道運搬装置(レールをその上下両面において狭持するように複数組の車輪を配置したもの)の発明が特許公報(昭和四一年九月二八日出願、同四六年一〇月二七日公告)に開示されており、成立に争いのない乙第六号証によると、支柱に、その軸方向における位置を調節可能に単軌条を固定するための取付部材と地面に接触することによって上記支柱の地面に対する位置を規制するための位置規制部材とを取付たことを特徴とする単軌条の支持装置の考案が別紙(一)のとおり実用新案公報(昭和四一年一〇月一三日出願、同四八年一月三一日公告)に開示されていることが認められる。

右考案は、モノレールの軌条を取付部材によって支柱の上部付近の一側方に支持するものであることが明らかである。

(4) 以上により、前記自走式単軌道運搬装置の特許及び単軌条の支持装置の考案の存在を前提として、本件考案の詳細な説明の記載及び同添付図面の記載を勘案すれば、本件考案の構成要件(二)の「右支柱上に軌条を敷設してあること」は、支柱上方の適当な高さの「中空」或いは単に支柱の上方に軌条を保持することを意味すると解することはできず、まさしく支柱そのものの上に即ち支柱上に軌条を敷設してあることと認めるのが相当である。

蓋し、用途考案はもともと考案性のない物を、その物にとって新しい用途に条件を付して利用することについての考案であるから、モノレールをゴルフコースに転用したというだけでは足りないことは明らかであって、条件即ち技術性を抜きにして実用新案権の権利範囲を考えることはできないし、どのような技術的条件のもとに転用するのか、限定してその要旨を実質的に認定しなければならないからである。

しかしながら、原判決が前記認定の理由として述べる右判示部分は明らかに誤ったものである。

すなわち、右判示部分で言及する本件実用新案公報の記載との関係の点からいえば、同公報の図面には支柱の上端面に軌条を敷設する構造が示されているものの、これがその実施例であることはその記載に照らして明らかなところであり、同公報の本件実用新案登録請求の範囲の記載及び「考案の詳細な説明」の項の記載にも、本件考案の技術的範囲が、右実施例に限定されることを肯定する文言は全く存しないことも明らかなところであって、同公報の記載から、本件構成要件(二)の「右支柱上に軌条を敷設してあること」の意義が、支柱の上端面に軌条を敷設してあるものに限定されるとする右判示の誤っていることは明らかである(なお、右判示では「考案の詳細な説明」の記載に「自走車11には、下面に軌条8を抱持する複数の車論12があって、該自走車11が軌条8上を離脱することなく走行させ」とあることも右判旨の結論を裏付ける一つの論拠であるとしているが、該記載は軌条の取付位置が支柱の上端面であろうと、上部側方であろうといずれの場合であってもあてはまる記載であることは火を見るより明らかなことであって、これが軌条の取付位置を支柱の上端面に限定したことを示す記載たりえないものであることもいうまでもないことである。したがって、右判示で、本件考案が、軌条を支柱上端面の軸線上で支える構成であるがゆえに、軌条を抱持する複数の車輪の構成と相まって自走車が軌条を離脱することなく走行できる作用効果を生じさせていると指摘している点も全くの誤りであって、本件実用新案公報には、軌条を支柱上端面の軸線上で支える構成を採ることによる特有の作用効果については何の記載もないものである)。

また、右判示部分で、本件考案が用途考案であり、新しい用途に条件を付して利用することについての考案であるから、モノレールをゴルフコースに転用したというだけでは足りず、どのような技術的条件のもとに転用するのか、限定してその要旨を実質的に認定しなければならないとしている点は、一般論としてこれを肯認するとしても、それだからといって、この一般論から直ちに本件考案の構成要件(二)の「右支柱上に軌条を敷設してあること」が、支柱の上端面に軌条を敷設してある場合だけに限定されると結論付けるのは、事の一面だけしか見ないことに基づく全くの謬見にすぎない。

すなわち、本件考案は、本件実用新案公報第一欄二四行目以下に「従来、果樹園等における集荷運搬手段として集荷運搬車を走行させる軌道運搬装置があり、またゴルフコースの途中に横たわる谷、河川又は湖沼等に架設された橋上に運搬車を走行させる軌道運搬装置があり、更にまた傾斜地の登降用に運搬車を昇降走行させる軌道運搬装置があるが・・・・」と記載されていることからも明らかなように、従来の軌条運搬装置をゴルフコースに応用したのが本件考案で、軌条と支柱との取付に関する構造についていえば、本件考案の出願時には、既に本件実用新案公報の実施例図の如き構造のものも、被告装置(一)における如き構造或いは甲六号証の特許公報の如き構造のものも、したがってこれらの軌条に噛み合う自走車の車輪も先行技術として公知の構造であったのである。

そして、もちろん、これら構造に基づく長所、短所は当業者はおろか当業者に至らない者にとっても容易に認識し得たほど自明であったものである。

本件考案が実用新案権として特許庁より登録を許されたのは、本件実用新案公報の実施例図第三図のような支柱の上端面に軌条を取付け、自走車が該軌条を跨座して走行する構造なるが故ではなく、いわゆるモノレール方式の自走車をゴルフコースのキャディバッグ運搬用に応用したが故であり(したがって、当然のことながら、前述のように、本件実用新案公報には登録請求の範囲にも、詳細な説明にも、軌条の取付け位置が支柱の上端面上である旨の限定も、自走車が跨座式である旨の限定もない)、したがって、本件考案におけるいわゆるモノレール方式の軌条は、本件考案の出願時に公知であったモノレール方式のすべてを含むものであり、被告装置(一)の如くモノレールの軌条を取付部材によって支柱の上部付近の一側方に支持する構造のものも当然にこれに含まれるものであったことは極めて明らかなことである。

用途考案が新しい用途に条件(技術的条件)を付して利用することについて、の考案であるとしても、それは、いかなる部分についても条件(技術的条件)を付すことを要するというようなものではなく、考案の本質的要旨(考案を考案たらしめる要素)と関係せず、しかも実用新案の出願時において、既に公知公用となっている付随的な技術的部分については、条件(技術的条件)を付すことを要しないものであることはいうまでもないことである。

本件考案にあっても、軌条と支柱との取付けに関する構造の如きは、本件考案の本質的要素と関係せず、しかもそれは本件考案の出願時において、既に公知公用となっている付随的な技術的部分にすぎなかったものであって、これに対してまで敢えて条件(技術的条件)を付すまでの要をみないものであるから、判旨の用途考案についての一般論をもってしても、とうていそのことから判旨の如き結論を導き出すことは出来ないものである。

以上、要するに、原判決の認定するように甲六号証の自走式単軌条運搬装置の特許及び単軌条の支持装置の考案の存在を前提とし、本件考案の詳細な説明の記載及び同添付図の記載ならびに本件考案が用途考案であることを勘案しても、本件考案の構成要件(二)の「右支柱上に軌条を敷設してあること」が、支柱の上端面に軌条を敷設してあることと限定して解釈しなければならない理由は何ら存しないのであって、却ってその意味内容は、その文言どおり、支柱の上端面であろうと、上部側方であろうと問わず、支柱の上部に軌条を敷設してあることを意味するものと解すべきものであることは明らかであるから、原判決の本件考案の構成要件(二)についての解釈は明白な認定の誤りを犯したものである。

(三) 本件考案の構成要件(一)の解釈についての認定の誤り

次に、原判決は、前記のとおり本件考案の構成要件(一)の「ゴルフコースに沿って多数の支柱を立設してあること」とは、各ホール内ではフェアウェイの中心線付近か少なくともフェアウェイに接して支柱を立設することを要すると認定し、その理由については、次の如く判示している。

(1) 本件実用新案公報によると、本件考案は、ゴルフバッグをプレイヤーに随伴させて芝生の上を運搬しながら、芝生を傷つけないことを目的としていることが明らかである。

(2) 同公報添付第一図にも芝生の上に支柱が立設されている如く図示されている。

(3) 各ホール内ではフェアウェイの中心線付近か少なくともフェアウェイに接して支柱を立設することを要するとしなければ、ゴルフバッグをプレイヤーに随伴させることができない。

しかしながら、原判決が前記認定の理由として述べる右判示部分もまた明らかに誤ったものである。

すなわち、本件実用新案公報の考案の詳細な説明自体に「軌条8はスルーザグリーン2の側方に沿設されているから、ゴルフのプレーに支障を与えることなく」と記載されていることからも明らかなように、軌条が敷設される多数の支柱はスルーザグリーンの側方に沿設されるものであることが考案の詳細な説明自体で明定されている(本件実用新案公報第三欄二五行目以下)ものである。

そしてスルーザグリーンとはコース(この場合のコースとは、プレーが許されている全地域をいう)のうちから、イ、現にプレーするホールのティー及びグリーン、ロ、コース内のすべてハザードを除いた残りの全地域をいい、フェアウェイ(フェアウェイとは、スルーザグリーンの短く刈ってある区域をいう)も、ラフ(雑草の繁るに任せた部分であり、芝生は植生されていない)もともにスルーザグリーンに含まれているものである―以上のラフを除く用語の定義は全て日本ゴルフ協会制定のゴルフ規則によるが、一般のゴルフ関係者においても同様の意味で理解されていることは公知の事実である―。したがって、ラフを含むところのスルーザグリーンの側方に軌条が沿設されることが(しかもそれはプレーに支障を与えざるほど遠方に)、本件考案の詳細な説明自体に疑いもなく明示されているのであるから、原判決がこれを無視して何故にラフを除外してフェアウェイの中心線か、フェアウェイに接して立設される支柱のみを本件考案が意味していると認定されるのか皆目見当もつかないことといわなければならない。

また、右判旨部分で述べる理由のうち、本件考案が、ゴルフバッグを、プレイヤーに随伴させて芝生の上を運搬しながら、芝生を傷つけないことを目的としているとの点は、それがゴルフバッグを単に芝生上のみを運搬しながら、芝生を傷つけないことを目的としているとの趣旨であれば(判文の上からはこのようにしか解しようがないが)、本件実用新案公報の記載を正確読み取らないことに基づく全く誤った解釈というほかはない。

すなわち、本件実用新案公報には、

(1) 「前コースに亘ってよく手入れした芝生が植生され」(公報第一欄三四行目)、

(2) 「自走車が直接芝生上を走行移動せず軌条上を走行移動するのでゴルフココースのプレイグラウンド全面に芝生を植生しても自走車の走行移動によって何等芝生に損傷を与えることがなく、また従来のゴルフバッグ運搬車の走行移動のためにゴルフコースの芝生を削りとってカート道等の専用舗装道を造成する必要もない」(補正に基づく公報第一欄一五、一六行)

との記載の存することは事実であるが、右(1)の公報の記載は、その前後の文章の意味からも明らかなように、ゴルフコースには全コースに亘ってよく手入れした芝生が植生されているとの当然の事理を明らかにしただけのもので、この記載から本件考案がハザード、ラフ等の全くない、その全行程、全面に亘って芝生が植生されているゴルフコースのみを前提にしているとか、芝生の上のみに軌条が敷設されることを本件考案が所期しているとかいうようなことは全然出てこないことはいうまでもないし、また右(2)の公報の記載も軌条が支柱によって支持されているから、たとえゴルフコースのプレイグランドの全面に芝生を植生したとしても、自走車の走行移動によって芝生に損傷を与えないものであることを敢えて効果を強調する意味で述べただけのものであり、この記載も軌条の立設位置を芝生上のみに限定することを意味したものではないことは明らかなことである。

したがって、本件考案を目して、軌条の立設位置を芝生上のみに限定することにより、ゴルフバッグを芝生上のみに運搬させながら、芝生を傷つけないことを目的としたものと解するのは全くの謬見である。

本件実用新案公報添付第一図もあくまでも一実施例にすぎず(同図が、かりに一実施例でないとしても、同図でも支柱はラフを含むところのスルーザグリーン上に沿設されることが図示されているのであるから、同図からも支柱が芝生の植生されたフェアウェイの中心線付近か少なくともそのフェアウェイに接して立設されているなどということはどこからも出て来ない)、また詳細な説明中のゴルフバッグ運搬車がプレイヤーに随伴しつつ巡回するということも、常にプレイヤーに密着してということを意味するものではなく、ゴルフプレイヤーに所望のゴルフクラブが比較的近距離の歩行によってプレイヤーに入手可能になることを意味することも明らかなことであるから、本件考案の構成要件(一)の「ゴルフコースに沿って多数の支柱を立設してある」ことの意味を原判決の認定の如きものとして解釈しなければならないとの理由は毫も存せず、その誤れることは極めて明らかであるといわなければならない。

いずれにしても、本件考案の構成要件(一)の「ゴルフコースに沿って多数の支柱を立設してある」との意味は、原判決の認定の如きものでないことは明らかであって、本件実用新案公報の記載を素直に読みとれば、その正当なる意味は次のようなものとして理解されるべきものである。

すなわち、

(1) そもそもゴルフコースにおいて芝生を必要とするのは各単位ホールにおけるプレーグラウンド内の一部であって、プレーグラウンド内にあっても雑草の茂るにまかせたラフ地域や、プレーの許されないO・B地域には芝生を必要としないし、単位ホールと単位ホール間の連絡通路等にも芝生を必要としない。

本件考案はゴルフコースには芝生を必要としない部分があることも前提にして、従来のゴルフバッグ運搬車が芝生のある部分を走行した場合には著しく芝生を損傷させることから、その欠点を除去することを解決すべき課題の一つとしたものであって、芝生を必要としない部分にはもともと従来のゴルフバッグ運搬車の走行によって芝生が損傷すること自体ありえなかったのであるから、本件考案がそれの損傷防止ということを解決すべき課題としたものでないことは明らかである。

また、本件考案が芝生のある地域を従来のゴルフバッグ運搬車が走行し、芝生を損傷させる欠点を除去することを解決すべき課題の一つとしたといっても、芝生上にのみ軌条を敷設しなければ、その解決ができないというものでないことも明らかなことであり、本件考案が芝生上にのみ自走車を走行させながら芝生に損傷を与えないことを解決すべき課題としたものでないこともいうまでもないことである。

いずれにしても、本件考案は、ゴルフコースには芝生を必要としない部分(例えばラフ地域、連絡通路、O・B区域)のあることも前提とした上で、芝生を損傷させ、しかも人手を要した従来のゴルフバッグ搬送手段の欠点を除去することを解決すべき課題としたものであって、全コースに亘って全面的に芝生が植生されていることを前提にしてその芝生に損傷を与えないことを解決すべき課題としたものでも、該芝生上にのみ自走車を走行させながら芝生に損傷を与えないことを解決すべき課題としたものでもない。

(2) したがって、本件考案はゴルフコースには全コースに亘って全面的に芝生が植生されていることを前提にしてその芝生に損傷を与えないために考案されたものでも、該芝生上にのみ自走車を自走させながら芝生に損傷を与えないために考案されたものでもないから、本件考案の「ゴルフコースに沿って立設した多数の支柱」の意義が、ゴルフコース内において全面的に植生された芝生上に立設されるものに限定される謂れは全くない。

この点、本件考案の明細書の「実用新案登録請求の範囲」で用いられているゴルフコースなる用語は、その「考案の詳細な説明」の項に「〈8〉は前記各単位ホールおよび多数の単位ホールを順次連結した連絡通路からなるゴルフコース」(公報二欄一九行目、二〇行目)と記載されていることからも明らかなように、芝生の植生されたプレーグラウンド(単位ホール)のみならず、芝生の植生されていない単位ホールと単位ホール間の連絡通路等まで含めた広い地域を指称したものであって(本件装置が循環するゴルフコース用ゴルフバッグ搬送軌道装置であることからしても、芝生の植生されているプレーグラウンド以外の地域を含むものであることは当然のことである)、しかも立設する多数の支柱は右のような意味でのゴルフコースに沿って立設されるとするものであるから、本件考案の解決すべき課題に加え、右の「沿って」という字句の通常の字義から判断しても(「ゴルフコース内に沿って」ではなく、「ゴルフコースに沿って」というのであるから、その内外を問わないものであることはいうまでもないことである)、本件考案にいう多数の支柱の立設位置が、芝生の植生されたゴルフコース内にのみ限定される謂れは全くなく、芝生の植生されたゴルフコース内はもちろんのこと、芝生の植生されていないゴルフコース外(O・B区域・連絡通路)であっても、あるいはゴルフコース内の芝生の植生されていない部分(例えばラフ地域)であっても、凡そゴルフコースに沿って立設されている構成のものであれば、本件考案の構成に該当することは明らかなことである。そして、このように解しても、ゴルフバッグをプレイヤーに随伴させるという目的も、ゴルフコースの芝生を損傷させないという目的もともに充分に達成することが可能なのである。

いずれにしても、本件考案の明細書の記載自体も、支柱の立設位置をゴルフコース内において全面的に植生された芝生上のみに限定しているものではないのであり、そもそもゴルフコースには芝生の植生されていない地域も多く存するのであるから、芝生の植生された地域上のみを循環状に多数の支柱を立設すること自体不可能なことであり、また仮に全コースに亘って芝生を植生したうえ、該芝生上のみに多数の支柱を立設したところで、それは多くの場合却ってプレーの障害になることが明らかなのであるから、それでは一体何のための考案かもわからず、本件考案がかかる構成をとるものでないことは、極めて明らかなことといわなければならない。

(3) 以上のとおりであるから、本件考案のゴルフコースに沿って多数の支柱を立設するとの正当な意味は、多数の支柱の立設位置が凡そゴルフコースに沿って立設されていれば、芝生の植生されたゴルフコース内はもちろんのこと、芝生の植生されていないゴルフコース外(O・B区域、連絡通路)であっても、或いはゴルフコース内の芝生の植生されていない部分(例えばラフ地域)であってもよいことを意味しているものであることは明らかなところである。

三、原判決の法令違背

以上で詳述したように、本件実用新案の技術的範囲についての原判決の前記一の認定はいずれも、実用新案法で準用する特許法第七〇条の解釈適用を誤ったもので違法たることは明らかである。

第二、原判決の権利侵害の有無についての認定とその法令違背

一、原判決の認定

原判決は、被告装置(一)、(二)はいずれも、本件考案の構成要件(一)、(二)を充足せず、その権利範囲に属しないものと認定している。

右認定のうち、被告装置(一)が構成要件(一)、(二)を充足しないと認定した点は、前記のとおり原判決が、本件考案の構成要件(二)の「右支柱上に軌条を敷設してあること」の意味を支柱の上端面に軌条を敷設してあることに限定して解釈したこと、本件考案の構成要件(一)の「ゴルフコースに沿って多数の支柱を立設してあること」の意味を各ホール内ではフェアウェイの中心線付近か少なくともフェアウェイに接して支柱が立設してあることに限定して解釈したことから、かかる認定を導き出したものである。

しかしながら、原判決の本件考案の構成要件(一)、(二)についての解釈認定がいずれも誤ったものであることは、既に詳論したとおりであり、本件考案の構成要件(二)の「右支柱上に軌条を敷設してあること」の正当な意味は、支柱の上端面であろうと、上部側方であろうと問わず、支柱の上部に軌条を敷設してあることを意味しているものであり、また本件考案の構成要件(一)の「ゴルフコースに沿って多数の支柱を立設してあること」の正当な意味は、多数の支柱の立設位置が凡そゴルフコースに沿って立設されていれば、芝生の植生されたゴルフコース内はもちろんのこと、芝生の植生されていないゴルフコース外(O・B区域、連絡通路)であっても、或いはゴルフコース内の芝生の植生されていない部分(例えばラフ地域)であってもよいことも意味しているものであるから、被告装置(一)が本件考案のしがしながら、原判決の本件考案の構成要件(一)、(二)についての解釈認定がいずれも誤ったものであことは、既に詳論したとおりであり、本件考案の構成要件(二)の「右支柱上に軌条を敷設してあること」の正当な意味は、支柱の上端面であろうと、上部側方であろうと問わず、支柱の上部に軌条を敷設してあることを意味しているものであり、また本件考案の構成要件(一)、(二)、(三)の全てを充足していることは明らかであって、この点同様の認定を行った第一審判決の認定が正当であることはいうまでもない。

そうすると原判決の右認定のうち、U字溝方式を含む被告装置(二)が本件考案のしがしながら、原判決の本件考案の構成要件(一)、(二)についての解釈認定がいずれも誤ったものであことは、既に詳論したとおりであり、本件考案の構成要件(二)の「右支柱上に軌条を敷設してあること」の正当な意味は、支柱の上端面であろうと、上部側方であろうと問わず、支柱の上部に軌条を敷設してあることを意味しているものであり、また本件考案の構成要件を充足しないとした認定の当否を次に問題とする必要があるだけとなるので、以下この点について詳論してくこととする。

二、U字溝方式(被告装置(二)の一部)と本件考案

原判決は、被告装置(二)におけるU字溝方式について

「・・・・・・土中に連続して埋設されたU字溝(5)に沿って一・五メートル以内の間隔ごとに、軌条(2)の両側壁を貫通する連結捧12をU字溝(5)の片側側壁と直交させ、かつU字溝(5)の溝内部において該側壁の上部側方に固定することにより該側壁に取り付け」

た構造のものと認定された上、

「本件考案の構成要件(一)の、ゴルフコースに沿って「多数の支柱を立設してある」とは、その文言自体及び前記二で判示の本件考案の作用効果(四)、(五)のほか、本件考案の明細書(前掲甲第一号証の本件実用新案公報参照)には、U字溝方式を示唆する記載・図示が皆無であることをも考慮すると、支柱をゴルフコースの地表面より上方に突出させて設置することを意味し、被告装置(二)のU字溝方式の如く、軌条をU字溝の側壁に取り付けるものを含まないと解するのが相当である。」

から、被告装置(二)におけるU字溝方式は本件考案の技術的範囲に含まれないものと認定しておられる。

しかしながら、右認定におけるU字溝方式の溝造が「軌条をU字溝の側壁に取付けたもの」との認識は明らかに誤っている。すなわち、被告装置(二)のU字溝方式の図面に明らかな如く、軌条(2)は連結棒12を介して取付部材10によってU字溝外側に埋設されているパイプ16によって保持されているのである。被上告人らはU字溝方式の図面においては、「パイプ16」と説明し、オープン方式(被告装置(一)の全部の支柱、被告装置(二)の一部の支柱の如く、支柱が地上に立設されているものをオーブン方式という。以下同じ)では支柱(5)と説明しているが、図面に明らかな如く、両者は全く同一の物で、U字溝方式においても、軌条を保持しているものはオープン方式と同様に支柱に外ならない。右図面の構造から云っても、連結棒12と取付部材10とは一体であり、これをパイプ(支柱)が支える構成であって、オープン方式におけるそれと何ら異なるところはなく、このことは、U字溝の側壁だけでは一二五kgを超える自走車の走行する軌条を支えることの不可能なことよりも明らかである。コンクリートプロック製の側壁(上方の厚みは僅か四・五糎)がかかる偏加重に耐えることのできないことは常識上明らかである。この点は被上告人モノレール工業株式会社の作成にかかる甲第一九号証(被告装置(二)の販売用宣伝パンフレット)にも「U字溝の外側にレール支持を併用する支柱を打ち込むのでU字溝の土圧、移動を防ぎ丈夫です」と記載されているものであって、同被上告人自らが「バイブ16」がレール(軌条)支持の役割を果たしていることを自認してさえいるところである。

三、オープン方式とU字溝方式の共通点と本件考案

(一) 共通点と本件考案

以上によって明らかなように、被告装置のオープン方式とU字溝方式との相違は、軌条を保持する支柱が地面に立設して露出しているか、U字溝側面の土中に埋設されているかの点のみであり、これら支柱によって軌条を保持する方法及びその形態も、支柱によって保持された軌条がゴルフコースにそって循環一周している形態も、また、自走車輌がこれら支柱によって保持された一本の軌条上を走行してゴルフコースを循環一周することも、両者に何らの差異も存しない。

すなわち、オープン方式もU字溝方式も共に支柱によって中空に保持された軌条がゴルフコースにそって循環一周しており、この軌条上を自走車輌がゴルフバッグを積載してプレイヤーに随伴しながらゴルフコースを巡回一周するもので、両者の差は、軌条を中空に保持する支柱の設置形態が異なるにすぎないそしてU字溝方式における支柱はU字溝側壁の地中に埋設せられてはいるが、軌条との関係において、これを見れば、ゴルフコースに沿って立設された支柱たることに変わりはない。

原判決は、前記の如く、本件考案の溝成要件(一)の「ゴルフコースにそって多数の支柱を立設する」とは、その文言及び作用効果のほか、本件考案の明細書には、U字溝方式を示唆する記載、図面が皆無であることを捉えて、本件考案は「支柱をゴルフコースの地表面より上方に突出させて設置することを意味する」と認定して、立設の意味を極めて狭く限定解釈しておられる。

しかしながら、本件公報の何処を見ても、後記の如く、「地表上に支柱を立設する」との記載は全くないものであり、地上に支柱が立設されていることを示す図面第2図、第3図も、飽くまでも単なる実施例にすぎないのであって、本件考案の構造がそれに限定される謂れは全くない。

(二) 権利範囲の解釈について

そもそも、特許権にしても実用新案権にしても、それらの権利範囲(技術的範囲)を解釈するに当たっては、それらの明細書記載の字句に拘泥することなく、それらの「解決すべき課題」とこれを「解決する手段」に適合するように合理的に解釈しなければならないことは云うまでもないことである。

そこで、本件考案についてこれをみるに、

(イ) 解決すべき課題

「解決すべき課題」は、従来のカートによる運搬における左記欠点を除去する点にある。

(1) キャディの手押車による運搬は、せいぜい二個が限度であり、二〇〇名のプレイヤーに対して一〇〇名のキャディを必要とするし、電動カートほどではないにしても、芝生を損傷せしめるし、また傾斜の登降に際しては転倒の危険が存した。

(2) 電動カートの出現によって、三個乃至四個のバッグを搬送し得るようになったが、カートそのものの重量が大幅に増加し、これに三乃至四個のバッグを積載するから芝生の損傷が甚だしく、また傾斜地の登降にはバランスを失って転倒する危険性が著しく増加した。

(3) 電動カートによる芝生の損傷を避けるために、ゴルフコースの側方にカート道を設ける方法が採用され始めたが、カートの車幅以上の道幅を要するし、坂道の登降に際する転倒の危険がさらに増加し、またカートがカート道外へ逸走するケースも多く、人身事故の危険性が増加した。

さらに、また、カート道は相当の面積であるため、打球がそこへ落下して、意外な場所へ飛び跳ねることがあり、正常なプレーを阻害する。

(ロ) 課題の解決手段

これらの欠点を除去するための「解決手段」は小型貨物運搬用として用いられていたモノレール方式を採用し、ゴルフコースに沿って敷設された軌条上を跨座式自走車輌を走行せしめ、これにゴルフバッグを積載して、ブレイヤーに随伴してゴルフコースを循環一周せしめる方法なのである。

以上の如く、本件考案の解決すべき課題は、「ゴルフコースに植成された芝生を損傷させることなく、しかも人手を省いて安全、確実にゴルフバッグを運搬する」(本件実用新案公報一欄一九行目ないし二一行目)こと、すなわち「ゴルフコースにおいては、全コースに亘つてよく手入れをした芝が植生され、該芝生を最良の状態に保全管理するためには多大の労力時間および費用を必要としているにも拘わらず、ゴルファのプレーに際しては、クラブを入れたゴルフバッグ運搬車(別名カートという)がゴルファとともにゴルフコース内を巡回しなければならないため、該運搬車は前記芝生上を牽引又は自走により走行移動するので、折角手入れされた芝生をその車輪によって著しく損傷している。そしてこの損傷した芝生を植生育成することは自然条件に委ねざるを得ないので相当の日数を要する。」(本件実用新案公報一欄三四行目ないし二欄七行目)という従来のゴルフバッグ運搬車の欠点を除去する点にあり、その解決手段としてモノレールシステムを採用したのが本件考案なのである。

(ハ) 作用効果

そして、本件考案の作用効果は前記の従来のバッグ搬送方法の欠点のすべてを除去するもので、殊に、

(1) 自走車は循環軌道を人力を要することなく走行移動するので、プレイヤー又はキャディは走行移動に対して労力及び注意力を全く払うことなく円滑かつ安全に操作することができる

そのためプレイヤーは、自らゴルフバッグを円滑に搬送しながら本来のプレーに専念でき、コースを巡回できる

(2) 自走車は、軌条に案内されて正しい姿勢で走行しているので、特に起伏のあるゴルフコースにおいても逸走・転倒する虞れがなく、安全にコースに沿ってプレイヤーと随伴して巡回走行できる

(3) 自走車は、芝生上でなく軌条上を走行移動するので、芝生に陶損傷を与えることがなく、ゴルフコースを最良の状態に保全して芝の育成、保全管理に要する労力・費用などを著しく軽減できる

点において、画期的なものなのである。

しかして、この考案の新規性、進歩性は、既に詳述した如くその出願当時においては、ゴルフコースにおいて、キャディと電動カートによるゴルフバッグ搬送に替えて、小型貨物搬送に使用されていたモノレールシステムを採用したことは殊の外に奇抜な着想であり、かかる点においては、まさに開拓的考案であったものである。

四、「課題」と「解決手段」より見た本件考案とU字溝方式

―「ゴルフコースに沿って立設した支柱」の意味―

以上述べた如く、本件考案の「解決すべき課題」は、従来のキャディ及びカートによる、ゴルフバッグ搬送方法の欠点を除去すること、云いかえれば「ゴルフコースに植成された芝生を損傷することなく、しかも人手を省いて、安全、確実にゴルフバッグを搬送すること」であり(公報一欄一九行乃至二三行)、そのための「解決手段」がモノレールシステムの採用のであるから、本件考案の要旨は「ゴルフコースに沿って敷設された単軌条上をゴルフバッグを積載した自走車輌を走行させること」そのものなのであって、軌条と支柱の関係はその意味において把握しなければならず、したがって、支柱の上端面に軌条を取り付けた形態であろうと、支柱上方の側面の連結棒に軌条を取り付けた形態であろうと、その保持形態を問わないものであり、またU字溝方式と云えども軌条が支柱上部に取り付けられることにより該支柱によって支持されている構造において、本件考案と同様なのである。

このように、本件考案の「解決すべき課題」とその「解決手段」より見て、本件考案が単軌条上を跨座式自走車を走行させるものであることは明らかであり、跨座式自走車を走行させるためには、軌条を中空にて保持することが絶対的要件であることも明らかであり、したがって「立設した支柱」とは軌条を中空に保持させるためのものであることが明らかである。

本件考案の「課題」とその「解決手段」が右のとおりであるから、本件考案にいう「ゴルフコースに沿って立設した支柱」とは、右の意味において把握しなければならず、そうすると、U字溝方式における支柱がU字溝側壁の外側に接して埋設されていても、その上方側面に取付部材を介して軌条を取り付けてこれを保持するためのものに変わりはなく、U字溝内に軌条を敷設する関係上、オープン方式の支柱の位置が必然的に移動してU字溝側壁の外側に埋設されているのであるから、軌条との関係においてこれを見れば、ゴルフコースに沿って立設されている支柱たることに変わりはない。

本件考案の公報に実施例として示されている第2図、第3図は、あたかも地表上に突出するように立設されてはいるが、これは、支柱と軌条との関係を示すためのもので、本件考案における支柱は地表上に突出するように立設されたものとは限らず、ゴルフコース内には、山あり、谷あり、急斜面あり、種々の地形であるため、軌条は、トンネル内を通り、溝を通り、橋上を渡ったりして巡回しているのである(本件考案がかかる種々の地形から成るゴルフコースを前提として考案されたものであることは、本件実用新案公報の一欄二四行目以下に「従来・・・・・・・・ゴルフコースの途中に横たわる谷、河川又は湖沼等に架橋された橋上に運搬車を走行させる軌道運搬装置があり」と記載されていることからも裏付けられる)。この故に、本件公報のいずこにも、地表上に突出露出した支柱を立設するとは記載されておらず、登録請求の範囲には「ゴルフコースに沿って立設した多数の支柱上に・・・・・・・・・・自走車輌を・・・・・・・・・・巡回走行させる軌条を敷設した・・・・・・・・」と記載されており、また考案の詳細な説明の項の記載も、「前記各単位ホールは連絡路6によって順次連絡され、・・・・・・・・・・。8は前記単位ホールおよび多数の単位ホールを順次連結した連絡通路からなるゴルフコースに沿って循環敷設した軌条であって、第2図に示すゴルフコースに沿った一定の経路上に立設した多数の支柱9上に連続して架設され・・・・・・・・」―公報第二欄一六行乃至二六行―と記載されており、公報の何処にも、地表上に突出、露出した支柱を立設するとは記載されていないのである。

五、本件考案と被告装置(二)のU字溝方式

(一) U字溝内における本件考案の実施例

すでに一言した如く、本件考案の実施例第2図及び第3図は支柱と軌条の関係を示すためのものであって、これをU字溝内に設けるとすれば、支柱の立設されている地面はU字溝の溝底に該当することとなる。したがって、公報にはU字溝内に支柱を立設する旨の説明はなくとも、U字溝内の溝底に右実施例の支柱を立設する構成は本件考案の要旨をすべて備えているから、溝内に設置された点にプラスαがあるとしても、この構成のものが本件考案の技術的範囲に含まれることは明らかである。

(二) U字溝内における本件考案の実施例と被告装置(二)のU字溝方式

本件考案の実施例は支柱の上端面に軌条を取り付けるものであるから、これをU字溝に用いればU字溝の溝底に支柱を立設することとなるが、本件装置のオープン方式は支柱の上方側面に軌条を取り付けるものであるから、これをU字溝に用いれば、溝の幅を広くしない限り、支柱は必然的にU字溝側壁の内側に接するか、その外側に位置する構造となる。

(三) 本件考案と被告装置(二)のU字溝方式

本件考案の「支柱の上端面に軌条を敷設した構造」は実施例にすぎず、被告装置のオープン方式における「支柱の上方側面に軌条を敷設した構造」が、本件考案の登録請求の範囲に云う「支柱上に軌条を敷設した構成」に該当すること既に述べたとおりである。

しかして、本件考案の実施例をU字溝に用いれば、U字溝内に設置した点においてプラスαが存しても、それが本件考案を利用するものであることは明らかであるから、被告装置のオープン方式が本件考案の技術的範囲に含まれるものである以上、被告装置(二)のU字溝方式も本件考案の技術的範囲に含まれるものと云わざるを得ないのである。

(四) 原判決の作用効果の把握における誤解

原判決は、被告装置(二)のU字溝方式と本件考案との作用効果を比較して、

「そして、別紙「被告装置(二)の図面及び説明書」の記載に鑑みると、被告装置(二)のU字溝方式は前記二で判示の本件考案の作用効果(四)、(五)を奏し得ないことが明らかである。のみならず、別紙「被告装置(二)の図面及び説明書」の記載、成立に争いのない甲第一九号証に弁論の全趣旨を総合すると、U字溝方式には、オープン方式にない次のような作用効果を奏することが認められる。

(一)U字溝方式は、軌条及びそれを支える支柱が地表に露出していないのでゴルフコースの美観が損なわれず、またオープン方式に比べてプレーの障害になりにくい。

(二)軌条が敷設されていても、敷設されていない場合と同様芝刈車輌を走行させてゴルフ場の所要の管理ができる。

(三)U字溝は、付近一帯の雨水を集水排出するため、ゴルフコースにおける雨水の滞留や湿潤化を避け、プレーと比較的密接な地域におけるコースコンディションを良好に保つことができる。

右のとおり、被告装置(二)は、循環軌道の相当距離にわたり、本件考案とは構成並びに作用効果を異にするU字溝方式を採用しているのであるから、本件考案と均等の装置であるということはできない。」

と判示しておられる。

しかしながら、右判示は、本件考案の「課題」と「解決手段」とその作用効果の把握において誤謬を犯しているもので、本件考案の課題は「ゴルフコース内の芝生を損傷することなく、しかも人手を省いて安全確実にゴルフバッグを搬送すること」であり、その解決手段が「ゴルフコースに沿って中空に敷設された軌条上をゴルフバッグを積載した自走車を巡回走行させること」なのであって、「立設した支柱上に軌条を敷設する」とは右の意味における支柱と軌条の関係を示すものであり、その作用効果はすなわち、右の「解決すべき課題」であるところの「ゴルフコース内の芝生を損傷することなく、しかも人手を省いて安全確実にゴルフバッグを搬送し得る」ことなのであって、被告装置(二)のU字溝方式は、これら本件考案の「課題」とその「解決手段」及びその作用効果のすべて備えており、本件考案の実施例であるオープン方式との差は、軌条が地上に露出していないというプラスαが存する点のみである。したがって、軌条が地上に露出していない点においてオープン方式に優れているとしても、それはその点にプラスαが存するだけのことで、本件考案の作用効果はすべて備えているのであるから、本件考案と作用効果を異にするものではない。原判決の右認定は、本件考案の「課題」と「解決手段」の把握を誤り、したがって、その作用効果の認識を誤っていることが明らかである。

以下、これについて述べる。

(一) U字溝方式が本件考案の作用効果の一部を奏し得ないとの点について

原判決は本件考案の作用効果として、

「(一)自走車は循環軌道を人力を要することなく走行移動するので、プレーヤー又はキャディーは走行移動に対して労力及び注意力を全く払うことなく円滑かつ安全に操作することができる。そのためプレーヤーは、自らゴルフバッグを円滑に搬送しながら本来のプレーに専念でき、コースを巡回できる。

(二)自走車は、軌条に案内されて正しい姿勢で走行しているので、特に起伏のあるゴルフコースにおいても逸走・転倒する虞れがなく、安全にコースにそってプレーヤーと随伴して巡回走行できる。

(三)自走車は、芝生上でなく軌条上を走行移動するので、芝生に損傷を与えることがなく、ゴルフコースを最良の状態に保全して芝の育成、保全管理に要する労力・費用などを著しく軽減できる。

(四)軌条は支柱によって架設されているから、地上障害物に阻害されることなく円滑に自走車を走行させることができる。

(五)従来のゴルフバッグ運搬車のように、その走行移動のためにコースの芝生を削り取って専用道を造成する必要がないから、プレー可能な芝生面を十分確保できる。」

との点を挙げ、U字溝方式は右の(四)、(五)の作用効果を奏し得ない旨認定しておられる。

しかしながら、本件考案の右(四)の作用効果は当然のことを説明したもので、オープン方式に特有なものではなく、U字溝方式においても同様であり、(五)の作用効果は、相当の面積を要するカート専用路を設ける場合とオープン方式とを比較したもので、特殊な場合の枝葉末節的な作用効果の説明にすぎず(専用路を設けないカートによる搬送においてはかかる比較は存しない)、U字溝方式が溝を掘搾するためにコースの芝生を削り取っているからと云って、そのことの故を以って、本件考案の「課題」の「解決手段」でないと云うことはできない。すなわち原判決も認定しておられる如く、本件考案は、従来の手押カートや電動カートによるゴルフバッグの搬送は芝生を著しく損傷するため、かかる欠点を有しないゴルフバッグ搬送手段、すなわち「ゴルフコースの芝生を損傷させることなく、しかも人手を省いて安全確実にゴルフバッグを運搬する」ため、小型貨物搬送用のモノレールシステムを利用したものであるから、ここに云う「ゴルフコースの芝生を損傷せしめる」とは、ゴルフコース内を走行するカートの車輪によって芝生を損傷させることを意味し、かかる欠点を除去すること、すなわち「自走車は、芝生上でなく軌条上を走行移動するので、芝生に損傷を与えない」点において、U字溝方式もオープン方式も何ら異なるところはない。

(二) U字溝方式がオープン方式にない作用効果を奏するとの点について

(イ)美観について

U字溝方式は、地表上に支柱及び軌条が突出していないから、遠方より見た場合はオープン方式より美観の点において優れていると云うことができる。しかし、オープン方式もU字溝方式も共に人工物件であることに変わりはなく、しかも、U字溝方式は、人工物件としてのコンクリートブロックのU字溝がある点において、至近距離より眺めれば、視覚に映る人工物件の量は多いとも云える。

ともあれ、一般的に云って、U字溝方式の方がオープン方式より美観の点において優れているということはできる。

(ロ)芝刈機等が通過できるとの点について

本件装置において、軌条にかかる荷重は走行する自走車輌の重量でそれは一二五kg前後であるが、U字溝方式においても、オープン方式と同様に、この荷重を支えているのは支柱であってU字溝側壁ではなく(側壁にも若干の荷重はかかるであろうが)、U字溝側壁はかかる荷重に耐え得るものではない(被上告人モノレール工業株式会社のU字溝は型式二四〇と呼ばれるもので、側壁の上方の厚みは四、五糎にすぎない)。

そして、芝刈機の重量は自走車輌より遙かに重く、その重量は五〇〇kg乃至一〇、〇〇〇kgもあるから、この重量がU字溝上を横断通過すれば、U字溝側壁が破損することは必定であり、かかる故に、芝刈機の横断通過する部分は、頑丈に補強された所謂「平面交叉方式」が用いられているのである。

(ハ)付近の雨水を集水排出するとの点について

ゴルフコースの雨水の集水排出は極めて重要な問題であって、地形によって、伏水があり、湧出水があり、流出水が生じるから、ゴルフコース造成時に専門家がこれらの条件を考慮して集排水溝を設置するもので、どの場所にでも設置してよい、というものではなく、U字溝があるが故に伏水の自然的な流れを妨害したり、湧水を惹起せしめたりすることも考えられるから、コースに沿ったU字溝がゴルフ場の集水排出に役立っているとは限らないのである。また、さらに、雨水の集水排出は本件の「課題」と「解決手段」とは無関係なもので、これをかかる「課題の解決手段」における作用効果として捉えること自体誤っている。

以上述べた如く、U字溝方式がオープン方式に優るものは、単に美観の点のみであって、しかも、それはプラスαにすぎず、U字溝方式が本件の「課題」と「解決手段」を同じくし、したがって、かかる「課題」の「解決手段」としてのU字溝方式が本件と作用効果を同じくすることは明らかであり、プラスαの存在を以って、本件考案と作用効果を異にするとは云えない。

六、被告装置(二)と権利侵害

以上で明らかなように、オープン方式とU字溝方式との構造上の差は、前者は支柱が地表上に突出しているのに対し、後者は支柱がU字溝側壁の外側に埋設されている点のみであるが、これとて、軌条を中空に保持するためのもので、ゴルフコースに沿って支柱が立設されていることに変わりはなく、また作用効果の点においても両者は全く同一であり、U字溝方式が美観の点において、オープン方式に優れているとしても、それはオープン方式の改良たるにすぎず、既にオープン方式(即ち被告装置(一))が本件考案の技術的範囲に含まれるものである以上、被告装置(二)がその一部にU字溝方式を含むとしても、これが本件考案の技術的範囲(権利範囲)に含まれるものであることは明らかである。

また、仮にU字溝方式が、支柱が地中に埋設されていることの故をもって、支柱の構造の点が本件考案の技術的範囲に含まれないとしても、そもそも、被告装置(二)の大部分はオープン方式であって、U字溝方式はオープン方式の補助的なものとして部分的に用いられているにすぎず、しかもU字溝方式といえども、その軌条はゴルフコースに沿って設置された支柱に保持されていることに変わりはなく、これら軌条は、或いはオープン方式の支柱により、或いはU字溝方式の支柱によって保持されて、ゴルフコースに沿って循環一周しているのであるから、

(イ)被告装置(二)の「課題」が本件考案の課題をすべて含むこと、したがって、その点において両者はその「課題」を同じくすることは明らかであり、

(ロ)その解決手段においても、

(1)ゴルフコースに沿って多数の支柱が設置され

(2)これら支柱によって保持された軌条がゴルフコースを一周循環しており

(3)この軌条上を自走車輌が走行巡回する

ことにおいて本件考案と異なるところはなく、本件考案の実施例たるオープン方式との相違点は、支柱の設置形態が一部において地上に突出、露出していない点であるが、これとて、

(1)被告装置(二)全体として見れば、部分的にU字溝を設けて支柱及び軌条を地上に突出していないようにしているものであるから、被告装置(二)全体における役割は、美観のための補助的なものにすぎず

(2)その作用効果は、U字溝部分に美観についてのプラスαが存する以外は本件考案と全く同じである。

から、本件考案の「課題」に対応する「解決手段」としては均等と云う外なく(すなわち、被告装置(二)のU字溝方式部分は美観のためのものにすぎないから、この部分がオープン方式であっても、本件考案の「課題」を解決し得ることに変わりはないのである)、被告装置(二)といえどもこれを全体として観案すれば、本件考案の技術的範囲(権利範囲)に含まれるものといわざるをえないのである。

いずれにしても、被告装置(二)は本件考案の権利範囲に属するものであって、これを製造販売する行為が本件実用新案権を侵害するものであることは明らかなところである。

七、U字溝方式が必要不可欠なものでないことについて

被告装置(二)のうちのU字溝方式部分は、ゴルフコースに沿って巡回する軌条装置の一部を単にゴルフ場内に埋設したコンクリート製U字型ブロック内に設置して敷設しているだけで、他のオープン式部分と全く同一の人工構築物であり、いずれもゴルフバッグを搭載した自走車が連続して走行する同一の軌道であり、利用目的、利用形態に何ら変わるところがないものである。

U字溝方式部分は、軌条が地上に露出していない点で特徴があるとしても、プレイヤーに随伴してゴルフクラブを提供し、ゴルフコースを巡回走行するとの本件考案との同様の課題を達成するためには、ゴルフコースの特定の場所にU字溝方式部分の軌条を設置しなければならないとの必然性など全然存在しないのであり、かかる観点からすれば、本件装置のうちゴルフコースの特定の場所に特定の距離部分だけU字溝方式部分を設置しなければ装置本来の目的や作用効果を奏功しないという関係は全然ないから、U字溝方式部分が本件装置にとって何ら必要不可欠なものではないのである。

また、プレイヤーがプレイをする際にU字溝方式であれば、プレーの物理的、心理的に障害にならないかというと、U字溝方式はゴルフコースの地面を掘削してコンクリート製U字ブロックの溝が設けられ、その側壁の上端面は地面に露出しており、また溝は開口した状態のままであるから、

(1) 打球が溝内に入ったり溝に近接して止まれば、スイングの妨げとなり

(2) 溝や軌条に当たって跳ね飛ぶ

ことはオープン方式と何ら異なるところはなく、

(1) オープン方式の人工物は支柱と軌条だけであるのに比し、U字溝方式においてはコンクリート製の溝が人工物件として加わるから、打球の衝突面積はオープン方式よりも大きく

(2) さらに、溝は開口されたままであるため、打球がこの中に転がり込むとコンクリート製の溝底を転がって移動し、溝底の傾斜に従って思わぬ所まで移動することがあるから、U字溝方式の方がむしろオープン方式よりもプレーの障害となることが多いといえるのであり、さらにオープン方式の軌条付近からこれを越えてボールを打つことと、U字溝の付近からこれを越えてボールを打つこととの間には、心理的、物理的障害としては大きな差が認められるのではないかとの点については、オープン方式の軌条であれ、U字溝方式の軌条であれボールがこれらに近接して位置し、次にこれを打つ場合にプレイヤーのスタンスまたは意図するスイングの妨げになるときには、ともにプレイヤーはその障害を避け得る地点から一クラプレングス以内にボールをドロップすることができる(日本ゴルフ協会制定のゴルフ規則第三章第三一条参照)などプレー上の救済処置をうけることができるのであるから、そのような場合でもオープン方式とU字溝方式とではボールを打つ際の心理的、物理的障害の点に何の逕庭もないのである。

したがって、U字溝方式は遠方から見た美観の点においてのみオープン方式よりベターであるといえるだけに過ぎず、プレーの障害という観点からみても、U字溝方式部分が被告装置(二)にとって必要不可欠なものでないことは明らかである。

八、原判決の法令違背

以上詳論したように、被告装置(一)はもとよりのこと、U字溝方式部分を一部に含む被告装置(二)も本件考案の構成要件(一)、(二)、(三)の全てを充足するものであり、本件考案の技術的範囲に属することは明らかであって、これと相反する原判決の前記一の認定は、実用新案法第二七条の解釈適用を誤ったものであって、その違法たることは明白である。

第三 結語

以上原判決には実用新案法第二六条で準用する特許法第七〇条および実用新案法第二七条の解釈適用を誤った違法があり、これら違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決を破棄のうえ、さらに相当な裁判のあらんことを求める次第である。

以上

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